研究内容

私たちの研究室では,電力,パワーエレクトロニクス,食品,ロボットなどを対象とした,
高電圧応用・計測技術を開発しています。

1.放電の時系列波形特徴量に基づく絶縁系の状態推定
 高度経済成長期に大量導入された電力機器の老朽化が顕在化しています。ところが,将来の人口減少に伴う電力需要の鈍化や,電力自由化などを背景にした昨今の厳しい社会情勢下においては,点検や診断によって機器の余寿命を把握し,限界まで使用したいという要望もあります。
 
 電力機器の高電圧絶縁系が劣化する要因の一つは,微小放電(部分放電)です。部分放電を可能な限り広帯域かつ時系列に計測し,劣化箇所の同定や劣化状態を定量推定することは,機器の重大な破壊を未然に防止することに繋がります。

 私たちは,現場への適用も視野に入れて,波形特徴量の時系列解析による劣化診断技術を開発しています。また,機械学習を援用して,劣化箇所の推定や劣化予測などの開発にも取り組んでいます。
 
 具体的には,以下のテーマに取り組んでいます。
1. 極限環境下における広帯域放電計測技術の開発ー超電導コイル絶縁システムの劣化状態診断ー
2. 光学観察が困難な異種材料界面を進展する放電の波形特徴量に基づく可視化
2. 時系列波形特徴量解析によるゲル中劣化痕(電気トリー)の状態推定と自己回復発現メカニズムの解明ーパワーエレクトロニクス絶縁技術の高度化ー
3. 放電物理に基づいて解釈可能な波形特徴量を用いた機械学習による劣化状態診断と予測
4. 現場への適用を想定した電力ケーブル接続部における放電計測技術の開発
2.高電圧誘電スペクトルメータによるシステムの状態推定
 私たちが開発している高電圧誘電スペクトルメータは,試料と直列にインピーダンスが既知のフィルタを接続し,パルス電圧を印加します。印加電圧とフィルタの応答電圧を周波数領域で相関処理することで,インピーダンスが計算できます。

 従来のインピーダンス計測では,印加電圧とフィルタの応答電圧の位相差からインピーダンスを算出します。したがって,周波数応答を得るために周波数を掃引しながら,その都度に応答電圧を計測する必要があります。その結果として,例えば1 mHzのインピーダンスを取得する場合は1,000 sの時間を要します。私たちの技術は,パルス電圧を一発印加して,信号処理によりインピーダンスの周波数特性を得ることができます。周波数掃引の必要が無く,計測時間はパルス電圧の時間幅で決まるため,極めて短時間に計測が終了できます。

 私たちは,高電圧誘電スペクトルメータの技術を応用して,高電圧駆動型のアクチュエータの動作評価に応用すると共に,食品のリアルタイム非破壊診断への適用を目指しています。

 具体的には,以下のテーマに取り組んでいます。
1. 食品生産プロセスにおける非破壊状態センシングを可能とするインピーダンス計測技術の革新ーヨーグルトの発酵過程の可視化ー
2. 誘電スペクトルの時系列特徴量に基づいた電界駆動型アクチュエータの動作評価技術の開発
3. 把持持久力の時系列解析に基づいた長期安全・安定な電界駆動型ソフトグリッパーの設計と制御
4. 3D造形食品の食感デザインに資する食品構造破壊センシング技術の開発
5. 食肉の冷凍・解凍過程における大気圧プラズマの利用と誘電スペクトルの時系列特徴量に基づいたリアルタイム状態診断